映画や音楽、文学、アートといった様々なカルチャーからインスパイアされ、エッジの効いたコレクションで、東京を代表するブランドとして確固たる地位を獲得してきたブランド「FACTOTUM(ファクトタム)」。ここでは、そんなファクトタムのデザイナーを務める有働幸司さんのスペシャルインタビューをお届けします。

有働さんのファッション的なルーツを教えていただけますか?
「地元は熊本で、中学時代までは野球に明け暮れ、高校生に上がるとブラスバンド部に入部しました。ですが、すぐに辞めてしまいました。で、何もやることがなくなった時に、唯一興味があったのが、ファッションでした。時代的には、DCブランドが全盛の頃。熊本にはインポートブランドも盛んで、個性的なセレクトショップやアメカジの古着屋があり、小さな街でしたが様々なタイプのお店が並んでいました。次第にそれらの服屋へ通うようになり、ファッションへの興味がさらに強くなりました。同時にその頃、都会に対しての憧れが強くて、『いつか東京で生活をしてみたい…』。そんな本音を心に秘めつつ、新宿にある東京モード学園への入学を決めました。専攻学科は、ファッションビジネス科です。『将来は、自分の洋服屋を持ちたい』と、漠然と思っていたことを覚えています」

東京モード学園卒業後は、どのような進路に?
「在学時よりアルバイトしていたビームスに、そのままお世話になりました。けれども、バイトと違って正社員になると当然ながら責任も生まれてきて。そのプレッシャーに耐え切れず躓いてしまって、数年後に退職することに。それから、思いきってロンドンへ短期留学することに決めます。そこで、ヨーロッパと日本のファッションの価値観の違いを目の当たりにしました。ヨーロッパの場合、テーラリングに代表されるように服に対して長い歴史があり、同時にミリタリーやパンクといった現象とともに服があります。また、社会的な階級によって着る服が違っているなど、ファッションそのものがカルチャーなんだと思い知らされました。逆に日本は、それらの良いとこ取りをして、アイディアとテクノロジーを駆使する。良い意味でのカオス、またはミックスカルチャーの国なんだと実感しました。これからは、そんな器用さが日本におけるファッションの醍醐味であることも知りました」

その後、帰国して98年にブランド「ラウンジリザード」の立ち上げに参加します。
「東京モード学園時代の同級生3人で集まって、『自分たちのお店をやろう』って話になりました。それぞれでお金を工面して、原宿に10坪くらいの小さなお店を原宿のキャットストリートにオープンさせることができました。最初は、セレクトショップとしてのスタートなのですが、当初からオリジナルも20型くらい用意しました。ジャケット、シャツ、ニット、カットソー、デニムなど男の基本的なワードローブはすべて揃えました。今振り返ると、ビジネスのことを右も左もわからない256歳の若者たちにしてはよくやったなあ、と思います。当然最初の1年はビジネスにならなくて、大変苦労しました。周りの先輩方のアドバイスもあり、2年目からは展示会を催して卸しを開始しました。その結果、各地の各ショップさんから多くのオーダーを取れるようになり、次第にブランドが軌道に乗っていきました」

「ラウンジリザード」設立の5年後には独立、「ファクトタム」としてご自身のブランドをスタートさせます。そんなファクトタムも今年で13年目に突入しました。特に思い入れが強いシーズンはありますか?
「ファクトタムが大切にしているのは、毎シーズンごとにコンセプトを設けて展開していくことです。例え凝ったコンセプトであったとしても、あくまでもスタンダードであり、ユーティリティであることを大切にしています。特に思い出深いコレクションは、2006年の春夏。U2のアルバム『WAR』からインスピレーションを受けて、“平和”というメッセージのもと、『ホワイトフラッグ』というテーマに設けました。そしてルックブックの撮影をU2の故郷であるアイルランドはダブリンで行いました。現地の学校に協力をしてもらって、生徒さんをモデルにして撮影しました。みんなに白い服を着てもらって集合写真を撮ったり、それぞれが持つ白のイメージをノートに書いてもらったり、それらも掲載しました。さらに2006年の秋冬には、小説『ライ麦畑でつかまえて』(J・D・サリンジャー著)をモチーフにし、NYの少年が旅をしながら、家族の絆について考え、アーミッシュに会いに行くというストーリーに。イメージした写真と知り合いの作家さんにストーリーを書いていただき、ペーパーバックの仕様で製作しました。ブランドを設立した最初の3年は、イメージブックの製作にこだわりストーリーのある世界観の構築にこだわり、その後はランウェイへ積極的に参加し、ライブで魅せるクリエイションにこだわりました」

2006年春夏時のルックブック。アイルランド、ダブリンにて撮影。現地の学校から協力のもとオーディションを行い、撮影に臨んだもの。生徒たちが着用している衣装は、すべてファクトタムの新作。

2006年秋冬のルックブックは、アメリカ文学の傑作『ライ麦畑でつかまえて』がモチーフに採用され、製作された。NYの少年がアーミッシュに会いに行くという壮大なストーリー。このルックブックのために書き下ろされたオリジナル小説も掲載された。

最近のビッグニュースとして、有働さんは今シーズンからイタリアの人気ブランド「CoSTUME NATIONAL(コスチューム ナショナル)」のメンズ部門のクリエイティブ・ディレクターに就任されました。お声がかかった時の気持ちと今後の展望について、お話を聞かせていただけないでしょうか。
「若い時から憧れていたメイド・イン・イタリーのブランドなので、最初はびっくりしました。『なんで自分に!?』と思いましたが、イタリアにもデザインチームがいて、いわゆる日本とイタリアの共同作業でのモノ作り。国をまたいだチームワークは、人格者であることやバランサーといったタイプの人が適任らしく、それからファクトタムで長年培ってきたクリエイションが高く評価されて、自分に声がかかったと聞き、嬉しい反面、大きなプレシャーものし掛かってきました。ですが、ファクトタムよりも高いプロダクトの上代設定になるので、高級素材や縫製、付属品といった、幅の広いプラスレンジが実現できるので、クリエイションのレベルも上がるな、と楽しみな部分も多いです」

今後、日本のメンズブランドはどのような方向に進んでいくと思いますか?
「デザイナーズブランドは、よりデザイナーズらしく。逆に大手は大手らしく、よりグローバルな展開をしていくんじゃないかな~。今よりももっとユーザーが色々とチョイスしやすい環境になっていって、ビッグトレンドはなかなか生まれにくい時代になると思います。ユーザーがトレンドよりも『自分らしさ』に価値観を見出してきているように、ブランドにもその『ブランドらしさ』がより必要になってくるのでは、と思っています」

今年6月には、セレクトショップ「ステュディオス」を運営するトウキョウベースととファクトタムの業務提携が成立し、業界を驚かせました。
「ファクトタムらしさを追求する中で、次第に『もっとモノ作りに特化していかなければいけない』と考えるようになりました。そこで、小売りは小売りのプロにお任せした方が良い、と考えトウキョウベースさんとタッグを組むことを決めました。その事によって、うちは一層モノ作りに専念していけるだろうと。それが会社の成長に繋がればいいと思っています」

2017.A/W COLLECTIONより


Profile】
有働幸司(ファクトタム デザイナー)
1971年生まれ、熊本県出身。東京モード学園卒業後、ビームスへ入社。退社後ロンドンへ留学。1998年に「ラウンジリザード」の立ち上げに参加し、その後独立。2004年に自身のブランド「ファクトタム」を設立した。2017年A/Wより、イタリアの人気ブランド「コスチューム ナショナル」のメンズ部門のクリエイティブ・ディレクターに就任。http://factotum.jp

PHOTO&TEXT_Daisuke Udagawa(LOADED)